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名古屋高等裁判所金沢支部 昭和55年(ネ)192号 判決

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の財産分与の申立を却下する。

控訴人は被控訴人に対し金一〇〇万円及びこれに対する昭和四四年五月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを八分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は次のとおり附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。(ただし、原判決七枚目表五行目に「第七号証の一ないし一〇」とあるのを、「第七、第八号証の各一、二、第九、第一〇号証」と、別紙目録の土地の所在「中金管」を「中金菅」とそれぞれ訂正する。)

(控訴人の主張)

一  財産分与について

控訴人が被控訴人と婚姻中、被控訴人の協力により得た財産はないから、控訴人には財産分与の義務は存しない。仮に、控訴人に財産分与の義務があるとしても、次のとおり控訴人は被控訴人に対する金一二〇〇万円以上の反対債権を有するから、対当額において相殺の意思表示をする。

1  控訴人が時計商を営んでいた別紙目録記載の建物は控訴人の生活の本拠であつたが、その所有権の帰属について争われ、控訴人は敗訴の結果、生活の本拠を失い財産上精神上甚大な苦痛を蒙つたから、被控訴人に対し金一〇〇〇万円以上の損害賠償請求権を有する。

2  被控訴人は昭和四四年二月初め家出した際、控訴人所有の預金証書(乙第一四号証)を持ち出し、未だに返還しないので、控訴人は右預金額相当の損害を蒙つたから、右預金の元金一〇〇万円と持ち出した日の翌月である昭和四四年三月一日以降年六分の割合による損害賠償請求権を有する。

3  控訴人は被控訴人の父寅吉より借受けた金一〇〇万円を返済するため被控訴人に委託したところ、被控訴人は寅吉に返済せず被控訴人名義で預金して控訴人に同額の損害を与えたから、控訴人は金一〇〇万円の損害賠償請求権を有する。

二1  被控訴人の父寅吉は愛情よりも金銭を重しとする人物であつて、被控訴人は父の指導、影響を受けて行動したため、勘定高い考え方に支配され、夫婦生活を破綻に導いたのである。もともと、被控訴人は病弱で、子もなかつたこともあるが、前記のような考え方に支配され、控訴人に対する愛情は薄く、これが控訴人の不貞行為を誘発する遠因ともなつたのである。そして控訴人の不貞行為による夫婦間の不和は双方の努力譲歩により平穏に復旧したものの、前記の被控訴人の考え方によつて被控訴人が生活の本拠である建物を控訴人に無断で自己名義に保存登記をなすに至つたことから、ついに夫婦関係が破綻するに至つたのである。

控訴人は生活の本拠である建物の明渡を要求され、悲惨な窮状に陥つているのに、更に、慰藉料の支払を命ずることは憲法三六条の精神に反する。

2  仮に、控訴人に慰藉料支払の義務があるとしても、前記のとおり、控訴人は被控訴人に対し金一二〇〇万円以上の反対債権を有するから、対当額において相殺の意思表示をする。

(被控訴人の主張)

一  控訴人が敗訴の確定判決により建物の明渡を求められた結果、事実上損害を受けたとしても、被控訴人の責に帰することは許されない。

二  被控訴人が控訴人主張の一の2の預金債権を所持していることは認めるが、右預金は控訴人と北陸銀行との話合により名義人に払戻されないまま凍結されているから、被控訴人に損害賠償義務はない。

三  控訴人の当審におけるその余の主張事実をすべて争う。

証拠関係(省略)

理由

一  財産分与の申立について

離婚に伴う財産分与の申立は人事訴訟手続法一五条一項にもとづく離婚の訴えに附帯してなす場合のほかは、家事審判法九条に定める乙類審判として家庭裁判所の審判事項に属するものであるところ、本件記録によれば、被控訴人は控訴人に対し離婚訴訟とともに財産分与の申立をなしたものの、昭和四七年一一月一日原審裁判所において協議離婚をなす旨の和解が成立し、同月二日協議離婚届をなしたことが明らかであり、被控訴人の財産分与の申立は訴訟手続で審理する根拠を失い不適法として却下を免れないにもかかわらず、そのまま適法に係属するものとして財産分与について裁判をなした原審の措置は判決の手続が法律に違背したときにあたるものというべく、原判決は取消しを免れず、被控訴人の財産分与の申立は却下さるべきである。

二  慰藉料の請求について

当裁判所も原審同様、被控訴人の慰藉料の請求は原審認容の限度において認容し、その余を棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおり改め、かつ附加するほか、原判決の理由説示中一、二及び三の1と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一〇枚目裏二行目の「弁論の全趣旨」の前に「控訴人の当審における尋問の結果、」を、同一一枚目表一〇行目の「協議離婚後」の次に「も」をそれぞれ加え、同行の「現住所」を「前記建物」と、同一一行目の「営んでいるが、」を「営んでいたが、」とそれぞれ改め、同末行の「確定している。」の次に、「その後、被控訴人より家屋明渡の強制執行を受け、現住所に転居した。」を加える。

2  控訴人の当審における主張、立証を勘案しても、前記認定(右1のとおり改めたほか、前記原判決の理由部分を引用)を動かすことはできない。

3  控訴人の相殺の抗弁は、不法行為(不貞)による慰藉料請求権を受働債権とするものであるから、民法五〇九条によつて許されないこと明らかであり、控訴人主張の反対債権の存否につき判断するまでもなく採用できない。

以上の次第で、原判決を取り消し、財産分与の申立を却下し、慰藉料の請求については、原判決認容のとおり金一〇〇万円とこれに対する昭和四四年五月一八以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

目録

富山県下新川郡朝日町泊字中金菅三一三番地の三所在

家屋番号四一番二

鉄筋コンクリートブロツク造陸屋根二階建居宅兼店舗一棟

床面積 一階 六八・五九平方メートル

二階 五六・五二平方メートル

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